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Bitcoinの仕組みは“サイエンス”と比べて「思い切っている」

ブロックチェーンの世界は”リアルな実験”に見える? メカニズムデザインの専門家でありBitcoinノードも運用している慶應義塾大学経済学部教授の坂井豊貴さんに聞くインタビュー後編です。このFLOC LOGの新連載「ソーシャルチェーン/Social Chain」では、ブロックチェーンのアートとしての側面またはサイエンスとしての側面について、識者へのインタビューを重ねて、“インタビューのチェーン”を紡いでいきます。

研究者から見ると、ブロックチェーンの世界は人間の秩序を観察できる点で面白い


坂井豊貴/さかい・とよたか
慶應義塾大学経済学部教授、(株)デューデリ&ディール・チーフエコノミスト。ロチェスター大学Ph.D.(経済学)。メカニズムデザインの研究と不動産オークションへのビジネス実装に従事。著書に『多数決を疑う』(岩波新書、高校教科書に掲載)、『マーケットデザイン』(ちくま新書)、『暗号通貨vs.国家』(SB新書)ほか。アジアで翻訳多数。

 

「最初にサトシ・ナカモトを読んで、そこから学術論文を当たる」


FLOC松田:坂井さんはエンジニアではありませんよね。どうやってブロックチェーンへの知見を深めていったのですか?

坂井教授:アカデミックな研究をするときと同じようなことをやります。僕はBitcoin(ビットコイン)でもブロックチェーンでも学術論文を読むんです。というのは、学術論文というのは世の中で一番正確に書かれていて、かつ論旨が明快である可能性が高いからです。

具体的には、Google Scholarというサイトで学術論文を検索すると、それほど多くはないんですが、Bitcoinやブロックチェーンのガバナンス(統治プロセス)の学術論文が引っかかるので、それをまず読みます。最初にサトシ・ナカモト(のペーパー)を読んで、そこから学術論文を当たるわけですね。そうすると、やはり一般書とは比べ物にならないくらい深い知見が入るので、とても効率がいいんです。

FLOC松田:アカデミックの方々も、すでに当時ブロックチェーンに関する論文をいろいろ書かれていたのですか?

坂井教授:2018年に多少は出ていますが、2017年以前はわずかですね。そういった論文が何に注目しているかというと、文化人類学者がBitcoinのガバナンスに関心を持っていたり、あるいはEthereum(イーサリアム)のガバナンスに関心を持っていたりします。その感覚や面白さは、すごくよくわかります。

FLOC松田:一見つながりがなさそうな分野ですね。なぜ面白いか、教えてもらえますか?

坂井教授:フォーマルな組織や規則がないところです。例えばEthereumでいうとDAO事件がありました。Slock.it社がICOをしてイーサをたくさん集めたけれど、コードミスが突かれて盗まれた。そういうときどうやって対処するのか。もし「Code is Law(コードこそが法律)」の発想をとるなら、コードが法律なので、そのミスを突くのは許容される。そう考える人たちも結構いたわけです。

 一方で、Ethereumの開発者であるヴィタリック・ブテリンたちはそう考えずに、「やはりこれは問題なので、ブロックチェーンを流出の前まで(ある意味)巻き戻そう」と言い、結局それをやってしまったんです。あれを見ていると、当人たちは大変でしょうけれども、すごく面白いんです。

「ああこうやって人々が秩序を自律的に作っていくんだ」

坂井教授:要は、人々の規範理念のぶつかり合いなんです。何を正しいと見るかで人々が分裂している。「やはりCodeはLawではないんだ、ハードフォークで悪さがなかったことにしてやる」というヴィタリックたちと、「CodeはLawなんだ、われわれはコードが所有権を守るような仕組みを作っていることに誇りを持つべきなんだ」というCode is Lawの原理主義者の人たち。後者はEthereumから分離独立して、Ethereum Classicを作りましたよね。ひとつの人間の集団が、思想の違いで分離していく様子は興味深いです。

 あとは独特の秩序の作り方です。人間たちが自律的に秩序を作っていくさまは、あまり観察できないんです。国づくりの最初の時期にわれわれはなかなか立ち会えないですから。ですので、国づくりの最初の辺りを観察できるというのは面白いですね。オンライン上だとそれができるんです。

FLOC松田:研究者の目線だと、リアルな世界で行われる実験のように見えるのですね。

坂井教授:そうですね。社会契約論が好きな人は、あれを見たら非常に面白いんです。人間が分裂して、こちらとこちらで新しい社会を作るというのは、普通リアルな人間はできない。なぜかというと、普通は分裂するときにケンカをして、時には殺し合いまでするから。

 それに比べてオンライン上は平和なんです。とても平和です。サーバー攻撃みたいなものはあるけれど、やはり人を殺める物理的兵器は使えないから。ですので、割とあっさり分裂ができます。「ああこうやって人々が秩序を自律的に作っていくんだ、へぇ〜」と思います。そういうふうに思っている人が世の中には少数いまして、その人たちが論文にまとめています。

 

Bitcoinの仕組みは、“正しさ”の存在を前提にしていない

「Bitcoinの仕組みのすごくラディカルなところ」

FLOC松田:私は自然科学を学んでいました。科学という営みもブロックチェーン的だなと思うことがあるんです。例えば、多くの人が認めて承認されたブロックというのが1個の学術論文のようだなと感じられるのです。

坂井教授:特に反対はしません。ただ、僕が1つひっかかるのが次のことです。半ば無意識かどうか分からないですけれども、僕ら科学者は、真理というものの存在を前提にしているように思います。要するに正解のようなものがどこかにあって、それをわれわれは追い求めるものだというのが、基本的な科学者の態度だと思います。これは自然科学者も社会科学者もあまり変わりません。

 一方で、プルーフ・オブ・ワークという仕組みは、真実を求めているようには見えません。より多くブロックがつながっている方を正しいものとみなすんです。これが実はBitcoinの仕組みのすごくラディカルなところだと考えています。

FLOC松田:なるほど、真実がどちらか、どちらが正しいのかと決めるではなくて、長いことをもって正しいとみなすところですね。

坂井教授:その意味では真実の存在が背後にあるという想定を置いていません。これが僕にとってはドライというか、すごく割り切っているなと思う点です。あれは絶対に僕が思いつかない仕組みです。真理や正しさのようなものがあると、無意識のうちに僕は強く仮定しています。僕から見るとプルーフ・オブ・ワークはそういったものを放棄しているので、ドラスティックだ(思い切っている)なと思います。

「この仕組みを支える一市民だという市民感覚を持っている」

FLOC松田:そのプルーフ・オブ・ワークに参加しているマイナーたちは個人的な利益を追求しているわけですが、それによってBitcoinが維持されているという点は、どう感じられていますか?

坂井教授:あれは、マイナーの利益追求行動によってBitcoinが自律的に運行されるような仕組みが採用されているわけですよね。確かに僕もよく「あれはすごい仕組みだ」と言うんですが、実は内心そこまで思っていなくて(笑)。

 経済学者的には、インセンティブで制度を維持すること自体は普通の発想だと思うんです。僕がBitcoinに心惹かれるのは、ブロックチェーンの管理を一般のノードがやるところです。あれは完全にボランティアですよね。ノードをコンピュータに入れても250ギガバイトくらい容量を食うだけで、金銭的なメリットは全くありません。むしろ持ち出しです。僕は自宅のパソコンにノードをダウンロードしているんですが、それは、やりたくてやっているんです。そこに僕はやはり、この仕組みを支える一市民だという市民感覚を持っているんです。

FLOC松田:それは所属感覚という意味でもあるんですか?

坂井教授:そうですね、アイデンティティーの選択なんでしょうね。自分はこれが好きで、これをサポートするんだという。そのような金銭的なインセンティブでないものをも意識して、うまく維持される仕組みをサトシ・ナカモトが作ったわけです。

こういうメカニズムデザインはすごいですよね。市民感覚に頼るなんて怖いでしょう。ある程度はですが、人々の善意やボランティア精神に期待して仕組みを作っているわけです。


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この記事の解説者

松田壮一郎

FLOC カリキュラム部

東京大学で生命科学を学んだのち、科学雑誌の編集記者を経て、テクノロジー、金融経済、法律、サイエンスなどを横断する”学問の総合格闘技”としてのブロックチェーンに惹かれ、FLOCに参画。現在、FLOCブロックチェーン大学校 全カリキュラムの企画制作を統括。

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竹中 平蔵

東洋大学国際学部教授/慶應義塾大学名誉教授

一橋大学経済学部卒業後、73年日本開発 銀行入行、81年に退職後、ハーバード大学 客員准教授、慶應義塾大学総合政策学部教授などを務める。ほか公益社団法人日本経済研究センター研究顧問、アカデミーヒルズ理事長、(株)パソナグループ取締役会長、オリックス(株)社外取締役、SBIホールディングス(株)社外取締役などを兼職。博士(経済学)。

岩倉正和

一橋大学大学院法学研究科(ビジネスロー専攻)教授

東京大学法学部卒業後、93年ハーバード・ロースクール卒業(LL.M.)、94年NY州弁護士資格取得。2007年及び2013年にハーバード・ロースクール客員教授に就任。一橋大学大学院国際企業戦略研究科教授を経て、2018年より現職。M&A法、金融規制法、知的財産法、IT法、フィンテック法を含むビジネス法が専門。

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